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株式会社メカニカル・テック社 編集部著 材料×機械の共創による樹脂3D造形の市場拡大・活性化に向けた取り組み
大塚化学㈱ 化学品事業本部 マテリアルソリューション事業部 ビジネスユニットマネージャー ㈱グーテンベルク 社外取締役 稲田 幸輔 氏 ㈱グーテンベルク 開発部 統括部長 プロダクトマネージャー 梶 貴裕 氏 に聞く

本記事は、株式会社メカにカル・テック社が隔月で発行している ベアリング&モーション・テック の 11月号を特別な許可を得て転載しています。 ベアリング&モーション・テック本誌の情報は下記よりご覧ください。
https://bearingmotion.mechanical-tech.co.jp/
大塚化学とグーテンベルクは2022年から、大塚化学のチタン酸カリウム繊維「TISMO」配合3Dプリンター用樹脂複合材料「ポチコン(Potassium Titanate Compound)
フィラメント」と、業界トップレベルの高速・高精度造形を実現するグーテンベルクのFFF式3Dプリンター「G-ZERO」を用いた試作造形と、造形品の物性評価を進めてきた。
ここでは、材料×機械の共創による、社会実装に向けた樹脂3D造形技術の進展と、樹脂3Dプリンティング市場の拡大・活性化に向けた取り組みについて紹介する。
大塚化学のTISMOは繊維長10~20μm、繊維径0.3~0.5μmと極めて微細・高アスペクト比で、高強度・高剛性、優れた摩擦摩耗特性、断熱性、耐熱性、耐薬品性などの特長を有する(図1)。
1980年ごろに開発したポチコンは、TISMOの特性と、各種の熱可塑性樹脂の特性を巧みに組み合わせた機能性樹脂複合材料で、①極小・超薄肉製品の超精密成形が可能(ミクロ補強性)、②相手材への低い攻撃性と無潤滑での高いしゅう動性、③成形での優れた寸法精度と寸法安定性、④成形品の高い金型転写性と鏡面状態の平滑面、⑤優れたリサイクル性、などの特長を持つ。
上述の利点を有し射出成形で加工されたしゅう動部品や精密部品などで適用を広げてきたポチコン材料について、2016年頃からは3D造形用材料としての展開を開始、会社の理念でもある「素材の力を顧客と共に、創造的に、形にする事業(KATACHI Business)」を本格的に推進している。
機構がシンプルでエネルギーコストも少なくランニングコストが低い熱溶解積層(FFF)式3D造形を選択し開発したTISMO配合の均一な径・真円度の「ポチコンフィラメント(管理基準:フィラメント径は1.75mm±0.01mm、真円度は<0.003mm、比重(密度)は理論密度とほぼ同等、図1)は、①造形品のミクロ補強性、②ノズルの摩耗低減、③造形品の優れた寸法精度と寸法安定性、④造形品の優れた表面平滑性、といったメリットを提供している。
当初、ユーザーの多くが持つ3D造形へのイメージは「開発段階での試作、スペアパーツなど小ロット生産には向くものの品質・強度面で課題がある」、「PLAやABSなどの非晶性樹脂しか造形できない」というものだった。しかし、ポチコンフィラメントという材料と、3Dプリンターというハード、さらにはスライサーなどのソフトウェアの「三位一体による開発」を重ねていく中で、PPS、PEEKなど結晶性・半結晶性樹脂の造形を可能にし、3D造形の生産性(速度・コスト)、品質、強度が向上し、適用可能な範囲を拡大してきている。

グーテンベルクが2022年に開発・販売開始したFFF式の高速3Dプリンター「G-ZERO」(図2)は、造形の速さを左右する要素の一つであるツールヘッドのノズル最大移動速度が500mm/s、プリントヘッド最大加速度20000mm/s2と、同価格帯の市場にある3Dプリンターに比べて10倍の速度と20倍程度の加速度を実現している。
G-ZEROが高精度部品を短時間で出力できる技術としては、歪みのない高剛性フレーム、ブレの少ない精緻な描画を可能にする軽量ツールヘッド(G-ZEROとポチコンフィラメントで造形)、そして自動ベッドレベリング(水平出し)の組み合わせ技術などがある。
後述の最新機種を含むG-ZEROシリーズは、造形エリア(プラットフォーム)の平面度が高くプラットフォームの温度を変化させても平面度を維持できるほか、高低差をソフトウェアで補正することでほぼ平坦なエリアでの造形を可能(厚さ0.1mmのA3サイズのシート、目開き100μmのメッシュ、厚さ0.02mmのPEEKフィルムなどの造形も可能)としている。

特定の樹脂材料を使って3D造形したいとのユーザーからの要望と、装置メーカーが材料に合わせて装置をチューニングすることがないというミスマッチの解消を模索していた大塚化学は2022年、日本複合材料学会主催の3D造形関連ワークショップでグーテンベルクのG-ZEROに出会った。これをきっかけに、ポチコンフィラメントを提供しグーテンベルクのG-ZEROで試作造形して、大塚化学の研究所で造形品の物性を評価する、という材料×機械の共創が始まった。
2023年にグーテンベルクへの出資を決め、両社で材料・装置開発に着手。2024年には大型部品を分割せずに一発造形できる大型産業用3Dプリンター「G-ZERO L1」を投入した。
かねてからユーザーの要望が高かったのが、高温環境や高PV(面圧×周速)環境でのしゅう動特性や無潤滑下での耐摩耗性など、優れた特長を有するスーパーエンプラ、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の3D造形だった。PEEKは材料コストが高価な上、製品化には切削加工などの除去加工が使われるため無駄が多い。これに対し、FFF式3D造形では省資源と低コスト化が図れる。
大塚化学では早くからPEEKフィラメントを開発、海外のプリンターメーカーなどと共同で試作造形を行った経緯もあるが、安定造形には至っていなかった。
稲田氏は、「ホビーユースではなくプロユースの工業用途では、品質の安定化は必須。実用部品としての造形品の機械的強度や精度について、より定量的に評価するという意思統一を両社で行い、強度と精度を追求した実用に耐える造形が可能となった。チャンピオンデータではなく、再現性のある通常データで造形品の安定品質を提示できるようになっており、PEEKの造形において社会実装に必要な品質安定化のブレークスルーを果たしたと言える」と語る。
両社の共創により、また、材料・ハード・ソフトの三位一体の開発によって、後述のPEEK専用3Dプリンター「G-ZERO MP1」と、実用部品の高速・高精度・高強度造形が可能なPEEKポチコンフィラメント「KT14(ナチュラル色グレード)」および「KT14B(黒色グレード)が完成した(図3)。

本年7月に市場に投入したPEEK専用プリンター「G-ZERO MP1」(図4)はG-ZEROサイズをベースとしつつ、PPS対応までの最高ノズル温度350℃から、PEEKを溶融・吐出できる450℃に引き上げた。これに伴い温度に対する熱膨張を逃がす仕組みや、高温・高速で動くプーリ・ベルトの調整など、PEEK造形のためのさまざまな工夫を盛り込み、PEEKの高速・高精度・高強度造形(図5、XY方向では射出成形品より高強度)を実現している。
また、湿度を最小に抑えるドライボックス(除湿ユニット)も搭載した。梶氏は「大塚化学からは共創の初めより、フィラメントの保管の仕方は造形性と精度・強度を左右する最も大きな要因、と教えられてきた。特に湿度は徹底管理すべきで、除湿の機構によって、ポチコンフィラメントという優れた材料の特性を損なうことなく、産業向けで不可欠な造形の繰り返し品質を担保できる」と語る。


両社が狙うPEEK造形品の市場は主に、PEEKの採用実績が多い半導体分野、CFRPが多用される航空宇宙分野、PEEKの適用が始まった医療分野、部品の金属代替が求められるロボット分野である。
図6はロボットなどに適用可能な比較的大型のギヤだが、歯面の高精度造形だけでなく、減速機に組み込んでの長期の耐久試験に耐える高強度を実現している。
図7は人工骨置換手術で重要な骨芽細胞の成長を促進するための「ジャイロイド構造」の足場だが、こうした複雑な多孔質構造も高精度に描ける。稲田氏は「PEEKは医療用途に採用されるのに10年以上を要した」と言い、梶氏は「採用に10年以上かかるのであれば、高速造形・試作が可能な我々がいち早く着手し・提案する必要がある」と医療用途拡大への意欲を示す。


新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム」において、研究課題「生活空間を含む人との共存環境下でのロボティクス活用に資する革新的アクチュエータ等の構築」が採択された。研究テーマは「FFF方式の造形による樹脂製超軽量ロボットの研究開発」で、東京科学大学、グーテンベルクと共同実施先の大塚化学、東京都立大学、広島大学、千葉工業大学による実施体制となる。FFF方式の3D造形技術と複合樹脂材料技術を基盤に、軽量で高強度なロボット部材の製造技術を確立し、硬くて重く安全面での懸念がある金属製ロボットに代わる、人との共存環境下で本質的に安全な次世代ロボティクスへの応用を目指す。
グーテンベルクがG-ZEROをベースにプリンターの製造・造形条件の最適化を、大塚化学がPPSベースのポチコンフィラメントを主に高強度フィラメントの開発を行うことで、高強度部品造形技術の開発を進め、東京科学大学をはじめとするアカデミアが機械特性評価とロボット開発を進める。
例えばリーチ1000mm、可搬重量5㎏程度の金属製ロボットの自重が25㎏に及ぶのに対し、樹脂製超軽量協働ロボットではリーチ1000mm、可搬重量2㎏で、自重5㎏程度を目指している。3D造形による高強度部品をロボット構造材・減速機として適用可能か、初めに基礎的・汎用的な機械特性(強度、剛性、クリープ特性など)を評価し、次にロボットの機構要素技術を開発、さらに、これらの機構要素を用いて減速機・協働ロボットを開発する。
プロジェクトとは別の話になるが、2025年6月にドイツのSteinmeier連邦大統領が来日し東京科学大学を訪問、ポチコンフィラメントとグーテンベルクのG-ZEROを用いて同大学・遠藤 玄教授が製作した歩行/ローラーウォーク可変ロボット「Roller-Walker Ⅱ.r」の歩行とローラーウォークの円滑な動作を見学した(図8)。

国立研究機大塚化学は本年、阿南工業高等専門学校、新居浜工業高等専門学校、高知工業高等専門学校と、ロボット製作における3D造形技術の応用に関する共同研究契約を締結した。
上記の四国3高専に対して大塚化学がポリアミド(PA)系ポチコンフィラメント「NTL34M」を無償提供しグーテンベルクがG-ZEROを貸与して、ロボット要素部品の製作を行い、各部品の強度および繰り返し荷重に対する層間破断の発生メカニズムなど、力学的な側面からのデータ収集と分析し、材料および3D造形した部品の特性を明らかにする。また、本共同研究の成果が、教育・研究分野をはじめ、幅広いロボット開発、そして製造の現場における3Dプリントの利用可能性の拡大に貢献することも期待される。
従来のPLAやABSを使った造形部品は壊れやすいため交換部品をいくつも用意しておく必要があり、また競技中の交換を余儀なくされていた。これに対し、ポチコンフィラメントは過酷な使用環境に耐える実用部品の強度を実現するため交換部品・時間を必要としない。G-ZEROの高速造形によって迅速な部品製作が可能なことも併せて、「高専ロボコン2025」全国大会出場を決めた高知工業高等専門学校を含む3校から、高く評価されている。
大塚化学は「KATACHI Business」という新たな挑戦のもと、グーテンベルクとともに、製作過程に直面した課題、課題解決のために見出した手法、さらに大会競技の中で得られる新たな課題、実績を現製品の改良、新製品の開発のために活用し、切削と金型を中心とした従来製法に比して環境負荷が低い3Dプリンターによるものづくりの発展に貢献していく。
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